日中の最高気温が40度を超える日もあった今年のフィレンツェの暑い夏もそろそろ終わろうとしています。
8月も終わりに近づくと、朝晩に涼しい風が吹く日が少しずつ増えてきます。
暑さが少し和らぐと、「もうすぐ秋が来るんだな」と感じる季節です。
イタリアでは、夏になると長い休暇を取って旅行へ出かけたり、海辺でヴァカンスを楽しんだりする人も多くいます。
そんな中、我が家の今年の夏は少し違いました。
9月中旬に控えている音楽院の試験があるため、遠くへ旅行することもなく、フィレンツェの街を歩いたり、家で勉強したりしながら、ゆっくりと夏を過ごしています。
今年の夏は「学ぶ夏」
娘は今年、フィレンツェ音楽院へ進学することを決めました。
そのため、夏休みの間も少しずつ勉強を続けています。
音楽院の試験に向けて、今まで後回しにしていた和声連結、音楽形式、クレ読みなどにも取り組んでいます。
もちろん、40度近い暑さの中での勉強は、なかなか思うようには進みません。
本を数ページ読んでは休憩。
また少し勉強して休憩。
まるで匍匐前進のように、本当に少しずつです。
それでも、試験があることで「やらなければ」と思い、今まで面倒で後回しにしていたことにも少しずつ向き合うようになりました。
気がつけば、以前よりも音楽について説明できることが増えて色々な事が繋がってきています。
人は必要になると、やはり学ぶものなのだなと思います。
フィレンツェは、芸術を学ぶ人にとって面白い街
娘の勉強を見ていると、改めて思うことがあります。
フィレンツェは、芸術を学ぶ人にとって、とても面白い街です。
美術を学ぶ人だけではありません。
建築を学ぶ人。
音楽を学ぶ人。
ファッションを学ぶ人。
デザインを学ぶ人。
写真や文学など、さまざまな分野で創作をする人。
そんな人たちが街を歩くだけで、たくさんの刺激を受けることができます。
フィレンツェ旧市街を歩いていると、歴史的な建物、教会、彫刻、絵画、広場、街角の細かな装飾など、いたるところに芸術があります。
しかも、それらは美術館の中だけにあるわけではありません。
毎日の生活の中にあります。
街を歩いているだけで、作品に出会う
先日、街を歩いていて目に入ったのがストロッツィ宮殿でした。
ストロッツィ宮殿では、期間ごとにさまざまな現代アーティストの作品が展示されています。
今回は、水を使った作品が展示されていました。

こうした作品を見ていると、
「どうしてこの素材を使ったのだろう?」
「どのようにして人の目を引こうとしたのだろう?」
「見る人に何を感じてもらいたいのだろう?」
と、いろいろなことを考えます。
私は音楽を教えているので、こうした作品を見る時にも、つい「人をどうやって惹きつけるのか」ということを考えてしまいます。
音楽も同じです。
ただ正確に音を出すだけでは、必ずしも人の心を動かすことはできません。
どんな音を出すのか。
どこで緊張感を作るのか。
どうすれば聴いている人の心を引き込めるのか。
現代アートの表現方法を見ていると、音楽とは違う分野からも、演奏について考えるきっかけをもらうことがあります。
フィレンツェでは「偶然の発見」が多い
フィレンツェの面白さは、わざわざ美術館へ行かなくても、街を歩いているだけで何かを発見できることです。
建物のファサードを見る。
古い扉の装飾を見る。
教会の内部を少し覗いてみる。
ショーウィンドーを見て形やカラーセンスに驚く。
広場に置かれた現代アートを見る。
その一つひとつが、何かを考えるきっかけになります。
そして、フィレンツェは世界中から人が集まる街でもあります。
ファッションにとっても重要な街なので、ショーウィンドーを見るだけでも、
「こんな組み合わせがあるんだ」
「こんな色の使い方があるんだ」
と、新しい発想に出会うことがあります。
街を歩いている人の服装を見るのも面白いものです。
海にでもいるのという布の部分が少ない服装をしていたり、奇抜な格好をしている人、本当に面白い。
それぞれが違う個性を持ち、自分らしいスタイルを楽しんでいます。
芸術は、美術館の中だけで学ぶものではない
もちろん、専門的な知識を身につけるためには、本を読んだり、学校で学んだり、先生から指導を受けたりすることが必要です。
娘も今、音楽理論や和声などを本で勉強しています。
でも、それだけではありません。
学んだことを、実際の街で見たり、感じたりする。
それまで勉強してきたことと、目の前にあるものが少しずつつながっていく。
そうすると、同じものを見ても、以前とは違った見え方をすることがあります。
これは音楽にもつながっていくのではないかと思っています。
たとえば、歴史を知れば、作曲家が生きた時代について考えるようになります。
建築を知れば、その時代の空間や人々の暮らしにも興味が湧きます。
絵画を見れば、色や光、構図について考えることができます。
そうした経験が積み重なっていけば、いつか演奏する時にも、音符だけではない何かが表現できるようになるのではないか。
私はそんなふうに考えています。
フィレンツェには、さまざまな芸術家が集まる
フィレンツェに住みたいと思うのは、観光が好きな人だけではありません。
建築家。
音楽家。
美術を学ぶ人。
ファッション関係者。
デザイナー。
写真家。
作家。
さまざまな分野のクリエイティブな人にとって、フィレンツェは刺激の多い街です。
もちろん、フィレンツェに住んだからといって、突然才能が生まれるわけではありません。
毎日の練習も必要です。
勉強も必要です。
自分自身で努力することも必要です。
でも、毎日の生活の中に自然と芸術がある。
少し歩けば歴史的な建物があり、教会があり、美術館があり、現代アートがあり、ファッションがある。
そんな環境で暮らしていると、知らないうちにたくさんのものを吸収しているように感じます。
夏の夕方、アルノ川を歩く
フィレンツェで暮らしていると、芸術作品だけではなく、街の景色そのものからも刺激を受けます。
夏の夕方、アルノ川沿いを歩いていると、街全体が黄金色に染まる時間があります。

昼間の暑さが少し落ち着き、川沿いを歩く人も増えてきます。
特別な観光をしているわけではありません。
ただ歩いているだけ。
それでも、
「フィレンツェって、やっぱりきれいだな。」
と、何度見ても思います。
こうして毎日の生活の中で、美術や建築、音楽、ファッション、そして街の景色から少しずつ刺激を受ける。
それがいつか、今まで勉強してきたものとつながり、自分の表現をさらに深めてくれるのかもしれません。
今年の夏は、旅行へ行く代わりに、フィレンツェからたくさんのものを吸収する夏になりました。